11月8日 来る福一門会にて

先日、行われた落語会において私の演じたものを録音しておいたので、こちらにUPしておく。
客数は15人程。


一席目
【堪忍袋】

堪忍袋を人前でやるのは初めてであったが、要所要所で笑ってくれる方がいらしゃったので、手応えを感じている。
笑う空気を作りやすい演目なので、もっと大人数の前で披露すれば気持ちの良い笑い声が聞こえてくるのかもしれない。
枕はちょっと長くやり過ぎたかもしれない。それに私の性格上自虐ネタばかりになってしまうので、色々とバリュエーションを増やしたい。

[反省点]
ところどころもう少し間を開けて笑いを待つところを作るべきである。
堪忍袋に向かって罵声を入れるシーンにおいて笑いが起きていないので、罵声を入れ終わった後の笑い方や顔を変える必要がある。
あぁ、奇麗だなぁ!! これが嫌味だよと言うシーン。これをもっと嫌味っぽく言った方が良いか。怒鳴りながら嫌味っぽく言うのは難しいので、声のトーンを落としてみよう。
毎日毎日朝昼晩三度三度梅干しばっかりのところでも笑いが起きなかったので、言い方を変えてみる。
人前でこの演目をするのが初めてということで、笑い待ちをするという発想が微塵もなかった。
次からは客席の空気を読み取り、笑い待ちをしてもイケそうであれば、思い切ってやってみよう。


二席目
【孝行糖】

始めに言い訳をさせて頂きますと、急遽孝行糖をやろうと決め、さらに風邪を引いて喉が死んでおりました。この2週間で2,3度しか稽古をしていなかったため、色々と出来が酷いことになっている。本当に酷い。枕も酷い。

反省点しかないため、ざっと箇条書きしていくと、
・テンポが速い
・喋りが速いため優しい雰囲気が壊れている
・もっと間を持ってゆったりとしなくてはいけない
・相槌が聞こえにくい
・むしろ相槌が出来ていない
・動作が喋りに追いついていない
・門番の威圧感を表現出来ていない
・威圧感が出ていないため、与太郎が鳴り物で掛け声をする場面が台無し
・金歯師匠の孝行糖聞いてこの出来なのかと反省するべし



稽古をすればもっとうまくなる
とりあえずは、喉の調子を本調子に戻すところから始めよう。
火曜日から風邪を引いていて咳が止まらないのです。
そういえば、高座に上がっているときは一度も咳しなかったな。喉はいがらっぽかったけど。
それだけ集中できていたということか。

蝦蟇の油

無駄に胸を張って歩いてるよねと言われる私です。
胸を張れるものが何一つないのだから胸ぐらいは張ってもいいじゃない!!
というわけで、こんばんは。

久方ぶりにこちらでもって更新を行う。
本日は、録音した蝦蟇の油をアップする。

まだまだ納得できるものではないが、とりあえずアップをしてみて後ほど後悔する。後悔のあまり、しばらく旅に出ます。探さないでくださいという置き手紙を近所一帯にばらまいて、誰かが部屋を訪れるまでじっと待つメンヘラごっこをやりかねない。

 

今度披露する場では制限時間が7分程ということで、枕の時間も考えで6分30秒ぐらいには抑えねばならないので、ショートバージョンのものを稽古している最中である。

蝦蟇の油 ショートバージョン

 

続きまして、酔っ払いの部分だけフルでやったものもついでにアップしておく。
蝦蟇の油の笑わせるポイントは後半部分に集約しているため、フルでやらないと味が出ないのだが、
前半の口上をこれ以上削ると迫力がなくなってしまうため、上のような中途半端なものとなっている。
もう少し改良したいところである。

蝦蟇の油 酔っ払い部分 フル

 

 

 

ちなみに、しばらく更新していなかった間に、

「堪忍袋」、「孝行糖」を覚えた。

いつでも出来る。それぐらいには稽古した。

以上をもって報告を終了する。

 

 

それでは、またいつか逢う日まで・・・。

崇徳院 通し

ようやく最後まで通すことが出来ました。2ヵ月かかった。

まだ出来ていない部分は多々あるが、こういった落語をやりたいといったような雰囲気は出来ているのではないだろうか。

 

30分ほど喋っているので、聴くのであればご注意を。菩薩のような心を持ち、耳に障害が残っても問題ないという方のみ、お聴きください。それ以外の方が聴かれたとしても、一切責任を取りません。あなたの落語を聞いてからもう忘れられません。責任を取って嫁にして下さいというのであれば、例外として致し方なく責任を取りますが、それ以外は本当に責任を取りません。本当です。

 

崇徳院

 

とりあえずは、もう少し崇徳院を稽古して、出来ていないところを修正する。

そして、カラオケボックス等の雑音の少ない室内にて、上手くいった状態のものを録音して、もう一度アップする。

それが終わり次第、前座噺を稽古することに移行して、幾つか覚えた暁には、何処かの老人ホーム等々にて、やらせてくださいと頼み込み、人前でやってみる予定。

 

前座噺は、堪忍袋、道灌、子ほめ、金明竹初天神、やかん、千早振るのどれか。

どれも覚えてみたいので、多分やる気があれば全部覚える。

それでは、またいつか。

稽古中

崇徳院の進捗状況を知らせるために、今週の土曜日に録音したものを公開する。

今回は室内で録音したので雑音はあまり入っていない。しかし、私の声は入っているので、生理的に受け付けない方はご注意ください。責任は一切取りません。

 

崇徳院の途中まで

 

 

 

聴いてみると分かるが、まだまだ稽古が足りていない。

休日にしか声を出して稽古していないので、やはり所々たどたどしい。

前回のものよりはマシになったと思いたいが、前回出来ていない所が今回も出来ていないという成長の無さ。胸を張ってダメな男であると堂々と言える。誰か養ってください!

昔のように4,5日の間なにも考えずにただひたすら喋り通すということをしたい。

そうすれば今よりはきっとましになるはずだ。

だが、今は休日に全力で稽古をする以外にない。もっと集中して効率良くやっていこう。

 

とりあえずは、最後までしっかりと暗記をして、一通り出来るようになろう。

特に中盤以降はテンポが肝となっており、上手くハマればやっている私自身が気持ちよくなる所なので、是非ともそこまで覚えてやってみたい。

さあ、また河川敷に行って稽古だ。通報されませんように。

なによりも練習が足りない

河川敷で録音したものを公開する。雑音がかなり入っているのでご了承を。ええ、そうです。私の声です。それが雑音です。
ええ、後悔するとは分かっているが、自分の成果を一つ残しておくことで、後々聞いたときに顔面が真っ赤になってのたうち回ることができr……いや、後々聞いたときにどれほど向上したのかを確認できるので、間違いなく死にたくなるけれども、ここに公開しておく。間違いなく死にたくなるけれども。

DL先: これを聞くには相当の覚悟が必要です。

とりあえず、覚えているところまでなので時間は5分ほど。本来は30分ほどの話なので、1/6しかできちゃいない。
本当に30分ぶっ通してできるのか心配になる。

えぇ、では反省点を列挙していこう。
まずは、テンポがあまりにも酷い点が多々ある。ええ。分かっている。直ぐに返しが必要なのに、間を置いているところとか絶対にあってはならない点がある。特にうろ覚えの後半部分はひでえ。もっと頭にくっきりと刻み込んで、テンポのことを考えながら喋らないといけない。一つの音楽を聴いているように滑らかなものにしなければとても聞ける代物にならない。
次に、滑舌が悪くて甘噛みしている点が多い。もっと喋りこんで滑舌良くしないといけない。

一番の問題点は、大声を出すシーンで、大声になっていない!!!

私の中では出来る限り大声を出していたつもりだったが、熊さんや大旦那を張った声でやってるので、少し大声を出した程度じゃ大声になっていない。
これを解決するには、私自身の声の大きさを鍛えて声の幅を大きくする必要がある。
熊さんや大旦那の声を少し小さくすることも考えたが、それをやると間違いなく聞くに堪えない代物になるのが目に見えているので、大声の練習が必要。

それと、最後にある「ぷふーっ」というのが、糞難しくていくら練習しても出来る気配がしない。
私の声質だと出来ないかもしれないので、ここはどうにか改変しないといけない。

やはり、普段からあまり喋っていないから、声を出すのはとても疲れる。喉が枯れた。
それにしても声質が良くないね!!
もっと重低音でもって低い声だったらと思うことはあるが、この声で最も良くなるように考えて喋らなければならない。
特に熊さんの声をもっとどうにかしたいが、どうにもなりそうにない。
んんー、やはり私の声質にあった熊さんを一から作り上げるべきなのだろうか。台詞やら何やらを全て替えて、熊さんを役者ではなく太鼓持ちなんかにしてもっと陽気な声にして……もしくはもっと陰気な熊さんに……大きな改変がまた必要になるかもしれない。

褒めるべき点としては、くすぐり部分(笑わせるところ)の間合いの取り方や声色は上手く出来ている(自画自賛)
それ以外は特に褒めるべき点がない。こんなの寄席で聞かされたから空き缶投げつけるレベル。

やはり、考えながら喋るのではなく、喋りながら考えれるという段階までしっかりと頭に刻み込まなければいけないなと感じた。まずは暗記をする。そして、テンポを崩すことなく喋れるようにならなければならない。

もっと上手くなりたい。

崇徳院

熊:おい
大旦那:あっ、熊さんかい。さあさあ、こっちに入っとくれ。いやあ、忙しいところ御苦労さま
熊:んん、どういたしまして。とんでもない。いやいやいや、それよりね、あのー、あっしはね、若旦那さぁ、具合が悪いってのは知ってんですよ。えぇ、知ってるんだけどねえ、見舞いに来なきゃいけねえと思ってながらね、もーうここんところやけに仕事が忙しいんでねえ、ええ。もう、来てえと思っても来られなかったんで、すっかりごぶさたしちゃいましてどうもあいすいません。えぇ、で、若旦那、具合はどうなんです?
大旦那:んん、ありがとう。いやぁー、それがね、どうも、弱ったよ。
熊:そうですか。弱りましたか。じゃあ、もう誰か葬儀社や寺の方に人が行きましたか。
大旦那:おい、うちのせがれはまだ死んじゃいないんだよ。
熊:死んでねんですか。ああそうですか。なぁんだ。
大旦那:なぁんだ? がっかりしちゃいやだよ。えぇ?いや、その弱ったというのはね、その、何の病気だか分からない。つまり、病名が分からないってんだ。
熊:お医者様に
大旦那:いや、そりゃ見せたさ。えぇ? もーう、あっちのお医者様、こっちのお医者様、ねぇ。いっぱい見せたんだけれども、どのお医者様もただこう首をかしげるだけ。えぇ? 病気が分からないんだから、手の施しようがないってんで。えぇ。弱ったよぉ。もう当人どんどんどんどんやせ細っていくねぇ。えぇ、ところがね、2,3日前に来てくださったお医者様。中々に御上手な方と見えて、私が見てどこも悪いところがない。ただああやって弱っていくといのは、これは気の病だ。何か腹に思っていることがあるに違いないから、それを聞き出して、その思いを叶えてやれば、きっとあの病人は良くなると。こう言ってくれたんでね、うん。それから、ゆんべですよ。あたしと、それから番頭さんとね、二人で一生懸命せがれに聞いたんだけれども、やぁ、内気な性分ってえものも、そういうときには困ったもんだよ。何としても言わないんだ。えぇ? で、とどのつまりに、まぁ、熊さんにだったら、話をしてもいいと、まぁ、こういうところまでこぎつけたんだ。ねっ、そこでまぁ忙しいとこ今日来てもらったんだ、一つねえ、えぇ、せがれんとこ行って、その腹に思ってることを聞き出してもらいたいんだ。
熊:あぁーん、そういうことですか。いやいやいや、おやすいごようでございますよ。そんなこたぁ。えぇえぇ、いや、そりゃね。あっしは若旦那の贔屓役者ですからね。そりゃあ、あっしには何でも喋りますよ。えぇ、大丈夫です。ええ。必ず聞き出して見せますから。ええ、もう喋らなかったら張り倒してでも吐かせますから。
大旦那:おい、うちのせがれは罪人じゃないんだよ。えぇ? そんな乱暴な事しちゃいけないよ。なにしろお医者様の言うにはね、この分でいくってぇと、5日ともたないよなんて言ってるんだから、いいかい。身体がすっかり弱り切ってんだから、お前さん大きな声で耳元でガンガンガンガンやるってぇとね、えぇ? 身体に障るから。いいね。なるべくこの、やんわりと。いいかい、ねっ。やさしく聞いてやっておくれよ
熊:へい、分かりました。心配いりませんよ。大丈夫ですよ。えぇ、ええ。若旦那は。え? うん、離れ? ああ、そうっすか。へい。じゃ、分かりました。行ってまりますから。どうも。へい。 (移動)冗談じゃねえ、なっ。えぇ? そうやって甘やかすから病気が良くならねえんだよ。ったくしょうがねえ。少し威勢付けてやろうな、ええ。よっこらよ。ふん。 (大声で)おや、若旦那! 若旦那!!! なぁんだ本当にもう!! えぇ? そんなところに寝てて、どうしたんですよ。駄目だよ、病は気からってんだよ。えぇ? 自分でもって良くなろうとしなきゃねえ、どうやったって病ってえのは良くならないんだよ。しっかりろいなしっかり!!
若旦那:お前……大きな……声を出しちゃ……はぁはぁ……いやだよぉ……
熊:こりゃ葬儀社行った方がはええやこりゃ。若旦那。駄目ですよ、皆心配してるんですよ。分かりました。大きな声は出しませんがね、ええ。ちょいと話をしてください。ねっ、私はね、あのー。若旦那にね、あの、ちゃんとね、いいようにしますから。ねっ、その病名が分からねえってんじゃありませんか。えぇ? なんなんです。その病気ってえのは。
若旦那:医者には……分からなくたって……あたしには……分かってる。
熊:ふーん、医者に分からねえでおめえさんに分かるんですか? じゃあ、若旦那が医者になった方がはええですね、そりゃ。へぇ、なんなんです? あっしになら喋れるんでしょ? 言ってごらんなさい?
若旦那:うん……でも……お前……笑うとやだなぁ……
熊:いやぁー、笑いやしませんよ。人が患ってんじゃありませんか。それ聞いて笑うって奴がありますか。えぇ? 笑いやしませんよ。ねっ、仰ってください。えぇ? なんなんです? なんです?
若旦那:うん……それじゃあ……話すけれどね……実は……んふっ……でも、お前……なんだか……ふふっ……笑いそう(笑いながら)
熊:お前さんが笑ってんだよ。あたしは笑ってねえんだから。えぇ? さっ、仰いなさい。ねっ、仰いなさいよ。
若旦那:うん……じゃあ言うけど……恋煩い……
熊:なんです?
若旦那:恋煩い……
熊:恋煩い? ぷふーっ!
若旦那:ほらー、笑ったじゃないか……
熊:いやぁ、ふふっ、いや、勘弁してください。いっぺんだけ笑わせてください。へぇ、そうですか。いやー、話には聞いてますよ。あるてえ話は聞いてますけど、その病にかかった人に会うのはあっしは初めてで。あっしの周りにはそんなの一人もいませんからねえ。大層古風な病ですなぁ。どうも。そんな病気をいってえどこでしょいこんで来たんです?
若旦那:実は……今から二十日ばかり前だった……定吉を共に連れて……あたしゃ上野の清水さんへおまえりに行ったんだよ……
熊:あぁ、いいことしやしたね。ええ、信あれば得ありってえますからね。えぇ、またあのね、清水さんってえのは高台にあるから見晴らしがいいんですよ。あっしもすきでやすから。ええ。ねえ、ちょいと下見るってえと弁天さんの池がたぁーっとあってねえ、えぇ?向こう側丘湯島の天神。えぇ? 神田の明神。こっち方見るってえとまつし山商店の重み。(聴きとり困難))何とも言えねえや。ねぇ、そんでまたねえ、あのお堂の脇のあの茶店。あそこに寄りましたか? あそこはまたおつな家でねえ。えぇ? 腰をかけるってえと苦い茶に羊羹がる。あのまた羊羹がおつな羊羹でねえ。あれ幾つ食べました?
若旦那:羊羹なんかどうでもいいんだよぉ……まもなく……あたしの目の前に……ね……共の女中を三人連れたどこかのお嬢さん風の人が腰をかけた。あたしゃそのお嬢さんの顔を見て驚いたよ。
熊:へぇ、目が三つですか。
若旦那:そうじゃない……水の垂れるような人なんだ……
熊:そうですか。そりゃあ可哀想にねぇ。へぇ、じゃあはええ話が蜜柑を踏んずけたような顔なんですか?
若旦那:違うよ……元気ならぶつよ……もう……いい女のことをね……水の垂れるなと言うんだよ……
熊:はぁー、そんなこというんすか。えぇ、知らなかったもんですから。ええ、なるほど。
若旦那:あたしそのお嬢さんの顔をじーっと見ている……お嬢さんもあたしの顔を見ていた……しばらく経つとお嬢さんが立ち上がる途端に、膝の上に置いてあったちゃぶくさがおっこったんだが、それにも気がつかないでお嬢さん行きかけた。あたしゃ急いでそれを拾ったんだよ。
熊:良かったですねぇ。高く売れたでしょ?
若旦那:売りゃあしないよ……後を追ってって、お嬢さんに渡すと、真っ赤な顔をして、蚊の鳴くような声で礼を言ってから女中となにか話をしていた。そのうちにね、包みの中から短冊を取りだすと、筆の運びも鮮やかにさらさらと何かしたためて、あたしにその短冊をくれて、軽く会釈をすると行ってしまったんだが、ねえ、熊さん……その短冊というのがこれなんだ……ごらん……せをはやみ……岩にせかるる滝川のときて……うぅううぅっ……
熊:泣くこたぁねえじゃありませんか。えぇ? な、なんですって? せをはやみ 岩にせかるる滝川の? 短けえ都々逸ですね。
若旦那:都々逸じゃないんだよ……これは崇徳院さまの御歌で、下の句が割れても末に会わんとぞ思う。今は別れ別れになっても末には夫婦(めおと)になりましょうという心の歌なんだ。さぁ、これを貰って帰って来てからというものは、何を見てもお嬢さんに見えるんだよ。床の間の掛け字の達磨さんがお嬢さんに見える。鉄瓶がお嬢さんに見える。火鉢がお嬢さんに見える。こうしていたって、お前が……お嬢さんには見えない……
熊:なんであっしだけ外すんだよ。えぇ? そうですか。分かりました。じゃあ、はええ話がね。その、若旦那。そのお嬢さんと一緒になれりゃあね、夫婦になれりゃその病気ってえのは治っちゃうんですね。なあんだ、本当に。早く仰いよ。早く。えぇ? で、どこのお嬢さんです? どこなんです?
若旦那:分からない……
熊:分からない? なめえも所も分かんねえんですか? 弱ったねそりゃ。患うぐらいならなぜ聞かねえんですよ。
若旦那:だってあたしゃ……短冊貰ってぽーっとしてたから……聞けなかった。
熊:ふーん、本当にしょうがねえ。定吉だって付いてるんだからそれぐらいのこと気を利かせりゃいいんだよ。まったくどうもねえ。えぇ? 弱りましたねそりゃあ。そのお嬢さんだってそうだよ。ねえ。歌を半分ばかし書いて寄越すぐれえだったら、その短冊にねえ。なめえと所ぐれえ書いてくれりゃ手間省けんだい。しょうがねえなあ。弱ったねえ。じゃあ、若旦那。もうよしなさい。えぇ? なめえも所も分かんねえ。そんなものをちゃんと書いていかねえような。普通だったらねえ、ありがとうございます。私はどこそこの誰ですってちゃんと言うもんだ。ねえ。うん、それが、そのただありがとうってそんなくだらない歌をしみったれに半分ばかり寄越す、よしなさい! そんな女。ねっ、脇になんか見つけましょう。
若旦那:嫌だよ……その女じゃな
熊:じゃあ分かりました。泣いちゃしょうがねえなもう。分かりました。あっしがそのお嬢さん一緒になれるようになんとかしますから。んなそんな心配(しんぺえ)することありません。じゃあ、すいませんが話がしにくいからそこにあるなんてんですか。た、短冊ってえの。それちっと貸して下さい。いえ大丈夫ですよ。すぐに返しますから。へい。どうも。じゃあちょっと借りてきますよ。うん。 えぇ、行って参りやした。
大旦那:あぁ、ご苦労さん。ご苦労さん。えぇ、うん。それでせがれは何と言ってた?
熊:えぇ、実はせがれはね
大旦那:お前までせがれということはあるか。えぇ? なんだい。
熊:えぇ、実はね、えぇ、今から二十日ばかり前だそうですよ、えぇ。なんか定吉と一緒になんか上野のね、清水さんにお参りに行ったんですって。うん、でね、お堂の脇にね、茶店があるでしょ。あそこに入ったんです。またあの家もおつな家でね、腰をかけるってえと苦いお茶に羊羹が出てくる。その羊羹がまたべらぼうに美味いんですよ。
大旦那:あぁ、そうかそうか。せがれは下戸だからな。その羊羹が食べたいてえのか?
熊:いやあそうじゃねえ。羊羹はあっしが食べたい
大旦那:なにを言ってるんだ。なんなんだ早く話しな。
熊:いや、ちょいちょいちょい、ちょいと待ってくんない。話は順を追っていかねえってえと分かんなくなっちゃう。ねぇ、ええ。まぁ、間もなくね、その若旦那の前に、女中を三人連れた何処かのお嬢さん風の人が腰をかけた。ひょいと顔を見たときに驚いたそうですよ。
大旦那:どうしたんだい?
熊:えぇ? そのお嬢さんの顔。蜜柑を踏んずけたような。
大旦那:そりゃあ、御気の毒だな。
熊:いやぁーそうそうそうそう。そうじゃねえ。そう思うでしょ? あっしもそう思ったの。それが御気の毒じゃあないんですよ。ほら、えぇ? よく言うでしょ。良い女のことを。ねえ、水がこぼれたようなと。
大旦那:水の垂れるようなてんだよ。
熊:どっちにしたって濡れてますな。
大旦那:何をくだらないことを言ってんだ。うん、で、どうしたんだい。
熊:で、お互いに顔と顔をこう見合わせているうちに、お嬢さんの方がすっと立ち上がったんですね。膝の上に乗っけておいたちゃぶくさを落っことしたのにも気づかないで、すーっと行きかかったんで。若旦那、直ぐにそのちゃぶくさってえのを拾って、売ったと思いますか?
大旦那:思いやしないよ。そがれのこった、ちゃんと届けてやったんだろ。
熊:そうなんですよ。えぇ。あとを追いかけて落としましたよってんで、渡すってえとお嬢さん顔を赤らめて、蚊の鳴くような声でもって礼を言う。ねっ、女中と何か話をしていたが、包みの中から短冊を出して筆の運びも鮮やかにすらすらと何かしたためて、それ、若旦那に渡して行っちゃったってんですね。それ、それがね、それがね、えぇ、旦那、これなんです。これ。これ、ほらここに書いてあるでしょ? ねっ、ほら、あのね、うっ、うん。詠んでごらんなさい。
大旦那:なんだい。えぇー、せをはやみ 岩にせかるる滝川の
熊:短けえ都々逸だと思うでしょ?
大旦那:思いやしないよ。これは崇徳院さまの御歌だ、なぁ。下の句が割れても末に んん? 会わんとぞ思う
熊:へぇ、親子ですねえ。やっぱり言うことは似てるな
大旦那:馬鹿なことを言うんじゃない。親子でなくなっておんなじこと言うよ。
熊:ははぁ、なるほど。ふんふん、で、これを貰って帰ってきてからてえものはとにかく若旦那は何を見てもお嬢さんに見えちゃう。ねぇ、ええ。床の間の掛け軸がお嬢さん。それからこっちのね、えぇ、鉄瓶がお嬢さん。火鉢がお嬢さんってんで、あっしだけ違うんですけどね。もうそうなっちゃった。
大旦那:そうか、分かった。親馬鹿ちゃんりんだ。なぜそこに気がつかなかったかな。そうかい。あたしゃいつまでも子供だ子供だと思ってた。恋煩い。そうなの。うん、よしよし。じゃあ、あの、なんだ。そのお嬢さんと一緒にさせてやれば、せがれは治るんだろ?
熊:そうなんですよ。
大旦那:そうか。せがれが気にいった娘さんだ。ねえ、間違いはなかろう。家の嫁にしてやろうじゃないか。で、どこのお嬢さんなんだ?
熊:分からねえんですよ。
大旦那:えぇ?
熊:いや、聞かなかったってんです。
大旦那:しょうがないねどうも。うーん、所も分から
熊:所も何も分からねえ。もう名前も何も分からねえ。とにかく若旦那短冊を貰ってぽーっとしちゃったんで、何も聞かねえうちにそのお嬢さんいなくなっちまった。
大旦那:そうか。弱ったな。
熊:弱りましたね。
大旦那:うーん、どうしよう。
熊:そうですねえ、まあ、仕方ねえから、このまんま静かに息引き取ってもらうしか
大旦那:お前何しに来たんだいうちに。本当にもう。せがれを助けるんですよ。探しなさい。
熊:え?
大旦那:探しな。
熊:な、な、なんですか?
大旦那:そのお嬢さんを探すんだ。
熊:お嬢さんってどこのだれだか分からねえのに
大旦那:どこのだれだか分かんねえから探すんだよ。えぇ、分かったら探すことはないんだ。
熊:そりゃまあ、理屈はそうですけど、でも、んな、雲を掴むような話
大旦那:大丈夫だよ。どうせ日本人なんだから。
熊:そりゃ日本人には違いないけれども、日本人も随分いますよ? えぇ。そりゃあ弱りましたなあ。
大旦那:そんなこと言わないで頼むやっておくれよ。えぇ、せがれのためなんだ。なっ、ただ頼まないよ。もしそのお嬢さんを見つけてきたら、お前の住んでいる三軒長屋お前にやるよ。ええ、うちにある借金も全部棒引きにしてやる。やんな。
熊:いや、そりゃありがたいんですがね、うーんでもねえ。そりゃ、第一その何の手がかりもない
大旦那:そんなことないよ
熊:え?
大旦那:そこにあるこの崇徳院さまのお歌だ。これが手掛かりになる。うん。あっ、ちょっと待ちなさい。おいおい、そこに硯と紙があるだろ。それちょっと書いとくれ。うん。せをはやみ 岩にせかるる滝川の 割れても末に会わんとぞ思う おう、書けたか? 書けたらこっちに持ってきな。うん。はい、はいはいはい。これはせがれが大事にしてるから返してやんなさいよ。うん。あぁ、おい。これ持って
熊:ちょっと、持ってたってさ。弱ったねえ。こんなもんで探せますかね。
大旦那:探せるんだよ。ぼんやりしていちゃいけない。お清、そこに草鞋が十足ばかしあるだろ。構わねえから熊さんの腰にぶら下げちまって
熊:おいおいおい、なんだよ人の腰に無暗に草鞋ぶら下げちまって。
大旦那:その気になってやっておくれ。いいかい。なにしろお医者様にはね、五日ぐらいしか持たないとそう言われるんだ。いいね、その間に娘さんを見つけてきなさい。もし、お前が見つけてこないで、せがれに万が一のことがあったときには、あたしゃね、お前をせがれの仇として名乗って出る
熊:ちょいちょいちょっと待って。冗談じゃねえよ。分かりましたよ。こりゃあ大変なことになっちゃったなあ。どうもなあ。とにかく一旦うちにでもけえって茶でも飲んで落ち着いてかんげえよう。どうしていいか分かんねえや本当に。 今帰ったよ
カミさん:あぁ、おかえんなさい。何だったい? えぇ? お棚の御用ってのは。
熊:馬鹿馬鹿しい話だよ。えぇ? へっ、これ。
カミさん:なんだいそれ。
熊:えぇ? 歌の文句が書いてあるんだよ。
カミさん:なあに?
熊:若旦那がね、恋煩いしたんだ恋煩い。えぇ? 一緒にしてやりゃ病は治るってんで。ところがね、どこのお嬢さんだか分からねえ。それ探してこいってんだよ。
カミさん:あらー、大変じゃないかね。手掛かりってえのは?
熊:うーん、歌だよ。
カミさん:それが手掛かり? それだけ? ふーん、そりゃ大変だ。見付かるわきゃないじゃないかねぇ。
熊:そうなんだよ。で、日本人で水が垂れるぐれえしか分かってねえんだよ。
カミさん:大旦那も人が悪いねぇ。そんなとても出来そうのないことを頼むなんて。あんた、疲れただろ。お茶一杯飲むかい?
熊:んん、ありがてえ。貰おうじゃねえか。でね、もし見つけてきたら、五日の間に見つけてきたら、お前が今住んでいる三軒長屋をやるってこういうんだよ。
カミさん:行っといで行っといで。行ってきなさい。
熊:お前行ってきなさいっていうけれど見つかんなかったらどうなんだい
カミさん:見付かる。見付かるよそれは大丈夫だよ。えぇ? 見つけて帰ったらなんだい大家さんなれるよ。ねっ。あたしだって大家の女将さんなんだ。大旦那も気前の良い人ねぇ!! ねっ。行っといで行っといで。さあ、早く行っといで。
熊:ちょいと待ってくれ。茶の一杯ぐらい
カミさん:生意気なこと言うんじゃない。見つけないうちは飲ませない。
熊:ひでえこと言いやがんなお前。
カミさん:あら、たいそう腰にぶら下がってるね。歩いて探すからって? 草鞋を? 十足? 十足じゃ足りないよ。ここにもう十足あるから腰
熊:おいおいおい、腰が草鞋だらけだよ!
カミさん:しっかり探しておいでよ!!

あっちに探しこっちに尋ねて一日中歩き回りましたが、その日は分かりません。あく朝早く起きて弁当持って出かける。それでも分かんない。そのあくる日もまた、そのあくる日も分かりません。

カミさん:何をしてんだこの人は。もうじれったいねえ。まだ見つかんないのかよ。
熊:うるせえなこんちくしょう。何を言ってやんだい。こっちだって一生懸命歩いて探してんだよ。本当に。
カミさん:どういう探しをしてんだよ。
熊:だからこの辺に水の垂れるのはありませんかって
カミさん:水道の蛇口を探してんじゃないよ? お前さんねえ、歌の文句を書いてきてもらったんでしょ? えぇ? 手掛かりだって。なぜそれを大きな声でやらないんだよ。馬鹿だね。表を歩いて、人が大勢集まっているような所があったら、大きな声でその歌、怒鳴ってごらん。大勢の中にはその歌ならどこそこの娘さんが、どこそこのお嬢さんが、それがみんな手掛かりになるんだよ。さもなかったら、湯屋とか髪衣床とこかそういうとこに飛び込むんだよ。ねえ、ああいうところはね、皆が噂を持ち寄ってくるんだよ。そこでもってやってごらん。いいかい? だからね、空いてるうちは駄目だよ? なるべく混んでる床屋湯屋を探して飛び込んでってやるの。分かったかい? 本当に。今日探して帰ってこないってえともううちに入れないから。早く行っといで。
熊:うるせえ! ちくしょう。もうやだねえ。どうも。あぁー、なさけねえなどうも。あぁ、毎日毎日歩いてもう足が棒のようになっちゃたしなあ。これ下手するってえと若旦那より俺の方が先逝っちゃうかわかんねえ。大勢人が集まってやがる。こういうとこでやれって言ってたな。よし、せをはやみ岩にせかるる滝川のな。(息を大きく吸い込む) いや、なんでもねえ。なんでもねえ。気にしないでくだせえ。えぇ、えぇ。あぁ、驚いた。急に目が合うじゃら驚くじゃねえか。えぇ? 驚かせんじゃねえよ。ったく、えぇ? ふぅ、人がいると声が出ねえな。人がいねえとこ行こ。よし、誰もいねぇな。誰も聞いてねぇな。(大声で)せをはやみ!! 岩にせかるる滝川の!! せをはやみ!! 岩にせかるる滝川の!! だんだん上手になってきた!! せをはやみ!! 岩にせかるる滝川の!! いっぺえ子供がついて来たね、おい。菓子なんか売ってねえよったく、散れ散れ。(手を叩く)床屋に行けってそう言ってたな。床屋に入ってみよう、ね。うぅーっとー。えぇ、床屋さんですね。
床屋:そうですよ。
熊:あら、やけに空いてんな。誰もいねえや。誰もいないんですね。
床屋:えぇ、すぐにできますよ。
熊:ああ、そうですか。じゃあ、また来ますから。
床屋:いや、あんたすぐにできるんで!
熊:すぐにできちゃいけないんだよ。しょうがないねどうも。混んでるとこ。あれ? ここが混んでるな。混んでる。ねっ、よいしょ。ははっ、いっぺえだ。えぇ、たいそう詰まってますな。
床屋:えぇ、五、六人待っていただかないってえとね、ならないんです。へえ。お急ぎでしたらどっか他へ
熊:いえ、いいんですよ。あっし詰まってんのを探して歩いてんですから。
床屋:どぶ掃除みてえな人だねこの人は。そうですか。お待ちいただける。はい。じゃあ、どうぞおあがりになってええ、構いません。そこんとこで一服しててください。
熊:そうですか、どうも。ちょいとごめんなさい。ええ。えぇー、(一服し間を大きく取る) (急に大声で)せをはやみ!!!
客:ああ、びっくりした。いきなりびっくりするじゃねえか。なんだいお前さん。
熊:いやいやいや、気にしちゃ、気にしちゃいけません。えぇ。気にしちゃいけませんよ? せをはやみ 岩にせかるる滝川の
客:もし、あなた。その崇徳院の歌が随分好きなようですな。
熊:好きというわけじゃねえ。どっちかというと憎むべき歌ですよ。それにしても、よくこの歌聞いて崇徳院の歌って分かりましたね。
客:そうなんですよ。崇徳院って人だっつってましたねえ。もうなにしろね。近頃どこで覚えてきたんですか娘がその歌ばかりやってますんでねえ。えぇ。
熊:ちょ、どいどいどいて。どいてどいて。ちょっとちょっとあなた。あのお話がありますがね。あの、あなた娘さんがどうの
客:ええ、娘がその歌が好きなんです。
熊:これが……好き。そうですか……あの、娘さん、水が垂れますか?
客:別に水は垂れませんですな。
熊:そうですか。蜜柑を踏んずけたような
客:蜜柑なんか踏んずけませんよ? この間なんか大副踏んずけておっかさんに怒られた
熊:あの、いい女ですか?
客:そらまあ、ええ、近所で鳶が鷹なんて噂してくれてますなあ。
熊:そうですか。御幾つですか?
客:八つです。
熊:せをはやみー

湯屋に二十件、床屋に三十六件ばかりもうやっこさん顔がぴりぴりぴりぴりしちゃってふらふらになって

熊:こんちはー。
床屋:いらっしゃい。
熊:床屋さんですねえ。
床屋:そうですよ。
熊:やっていただけますか?
床屋:そりゃ、やれっていえばやれねえことはないが、あんたさっきいっぺん来た人でしょ。
熊:そうかもしれません。何しろ、三十六件目ですから。
床屋:へえ、ねえ。やりようがありませんなあ。
熊:じゃあ、ヒゲ植えてくれますか。
床屋:そんなことやったことありませんが、せっかくおいでになったんだ。こっちでおやすみなさい。
熊:へい。ありがとう存じます。せをはやみ……
床屋:だいぶ弱ってきてるねおい。
頭:おうよー
床屋:へい
頭:おう
床屋:どうもこりゃあ頭、お棚の騒ぎはまだ済みませんか。どうなりました?
頭:えぇ? どうもこうもねえよ。騒ぎってえのは、お嬢さんが患っちゃってね。これが恋煩いってんだよ。ったく馬鹿馬鹿しいねえ? そりゃあ、恋煩いだったら相手と一緒にさせりゃいいんだ。どうしたんだって訳を聞いてみるってえと、なんだかね、あの、御茶の稽古の帰りに清水の観音様にお参りして、それが終わってから掛け茶屋に入ってったら自分が座った目の前にね、どっかの若旦那風のいい男というのが座っている。もうそれでぽーっときちゃったらしいんだね。えぇ? それでもって立ち上がって出て行く。自分の膝の上に御乗っけておいたちゃぶくさってえのを落っこしたんだ。気がつかなかったんだけれども、それをそのいい男の若旦那ってえのが拾って届けてくれた。いい男ってのは何しても得なもんだい。うん、もうお嬢さん受け取るときにはね、ぶるっと震えてね、もう三日三晩震えが止まらなかったってんだ。ええ? あぁ、まあそれから帰って来てからてえものはとにかくね。なんにも喉を通らない。えぇ? おまんまが通らない。御粥が通らない。雑炊が通らない。思いが通らない。水が通らない。お湯が通らない。電車が通らない。バスが通らない。もうこんなに細くなっちゃって。えぇ? もう大変な騒ぎ。ねえ、うん、なんとかして探さなくちゃいけない。それをなんとか見つけよ。若旦那だぞ。若旦那見つけるんだよ。見つけた者には褒美として百円やるからなーってんで。まぁ、百円に皆目が眩んじゃってさ。ええ? 出入りに女だって何だって皆もう眼の色変えてばーっと探して歩いてるんだが、江戸中探したってどうしても分からねえ。ただ良い男ってだけだからな。しょうがねえから、皆クジを引こうってんで、宗助さんなんぞ北海道が当たっちまって、可哀想に。今朝一番で行ったんだけどね。俺は東海道。しょうがねえんだよ。俺もなんとか見つけて、百円ありゃ助かるんだよ。えぇ?
床屋:はぁ、大変ですな。それで、なんですか? 何か手掛かりがあるんですか?
頭:その手掛かりってえのは、そのお嬢さんがね、何だか知らねえけんども、歌をね、半分ばかりね、うん。その短冊に書いて、その若旦那ってえのに渡したってんだ。えぇ? それが手掛かりだって。その歌の文句書いてもらったんだ。変な歌。これね、せをはやみ 岩にせかるる滝川の 割れても末に 会わんとぞ思うってこんなつまらねえ歌。半分やりくりして分かんないねえ。わけえもんってのは。ねえ
熊:三軒……長屋……三軒……長屋……
頭:親方、なんか妙なもんが出てきてんな。
熊:三軒……長屋……三軒……長屋……(近づいていく)
頭:親方!! なんかこっちに近づいてきてんだが、何だありゃ!!
床屋:まぁ、最近熱い日が続いてますからなぁ。一人や二人、ああいった人が出ますよ。
頭:のんきなこと言ってんじゃねえ!! すぐ近くまで来てんだよ!!
熊:三軒……長屋……三軒……長屋……(近づいていく)
頭:親方ぁぁああああ!!! 親方あぁぁぁああああ!?
熊:三軒……長屋!!!! ったあ
頭:お、おい。なにをするんだ。おい離せ!
熊:離さない!! こんなところに三軒長屋がいた……おめえを探さんがために俺はもう手足を棒のようにして歩いて今日だって湯屋に二十件、床屋に三十六件。顔なんかぴりぴりぴりぴりしちゃってる。ちくしょうめえー、やっと見付かったー。おめえの出入り先のお棚のお嬢さんに用があるんだ。せをはやみ 岩にせかるる滝川の
頭:ちょ、ちょちょちょっとまて。ちょっと待てこの野郎。こんちくしょう。妙な歌をおめえが知って、おい。するってえと何か? おめんところのお棚の若旦那がその短冊を持ってる? 百円……野郎め!!
熊:なんだ!?
頭:なんだじゃねえ、こんちくしょう。さぁー、うちのお棚に来い!!
熊:いやぁーおまえがうちのお棚に来い!!
頭:おめえがこっちにこい!
熊:おめえが
床屋:ちょっちょっちょっちょいとちょいと。おい、二人して何してんだい。危ないよそんなところで話せば分かるんだからさ。取っ組み合いをして危ないってしょうがないね。おい、ちょいと。おい頭やめとくれっての。うわーったった。ほら、言わねえこっちゃねえまったくどうも。えぇ? なんだい頭。鏡割っちゃったじゃないか。
頭:なあに、親方しんぺえするない。割れても末に買わんとぞ思う。

 

 

 

志ん朝師匠の崇徳院をベースに諸々と改変。

時間があるときに覚えようとしているが、未だに序盤の方までしか覚えられていない。

しっかりと覚えて、テンポ良く喋れて、出来が良ければ、そのうちどこかで披露するかもしれない。

 

せをはやみー